「ワインパブ夢屋」 リンクを取得 Facebook × Pinterest メール 他のアプリ 10月 03, 2020 大阪、谷町筋四天王寺前夕陽丘の学園坂にあった「ワインパブ 夢屋」の看板。学園坂は道の両脇がお寺だらけのため、夜は真っ暗な道となる。その中にぽつんと灯る看板は実に怪しげだったと思う。近くには病院が多かったことから、ナースとドクターの2ショットが多く、スッチー、IT業界、ソムリエなどが集まってきた。もちろん、ワイン坊主も。BACK リンクを取得 Facebook × Pinterest メール 他のアプリ コメント
第三話 キール・ロワイヤル 10月 04, 2020 3-1 朝晩の寒さがそろそろ本格化しはじめ、郊外では霜柱を踏んでの出勤が増える頃になった。 それでも、かじかんでしまった体も心も、満員電車から会社に向かう頃にはほぐれ、昼食時にもなれば、ルーティーン・ワークのもたらす治癒力のお陰で自分を取り戻すことができる。 ところが、月曜日の早朝ミーティングとなると話は別である。 このところの不景気で、田中の会社でも営業部の 全体ミーティングが毎週のように行われていた。まずは販売成績の発表があり、次に販売目標、そして、そのための施策と続くのだが、いつの週も最 後に唱和する「頑張るぞ!」の声に象徴されるように、何の具体的実行目標も示されないまま、第二次大戦の頃の竹槍攻撃さながらの無策が繰り返されるばかりだった。 昼までの予定の会議ですら、白熱することのない まま、二時間もたたない内に終わってしまった。会議室からぞろぞろと溢れでてきた営業マンたちは書類を机の上に放り出すと早飯へと繰り出してい く。 田中が自分の机に腰を下ろすと同時に、電話が鳴った。 「田中さん、どないしてんのん、今日は」 阿波座のママの声だ。 「いやぁ、もう、朝から会議で大変ですわ」 「ああそう、サラリーマンらしいこと、ちょっとはしてるんやねぇ」 「そらそうですわ。僕かて、会議くらいは出ますがな」 「あんた、キタのベルサイユ行ったんやて?」 「えーっ、ママ、あの店、知ってはるんですか。か なわんなぁ」 「そらそうや、うちは、業界のゴッドマザーや言われてるんやから」 「はははは、参りました。でも、あの店にはほんまにさすがの一郎君もびっくりでしたわ」 「そうやろな。でも、あのママ、あんたのこと気に入ったみたいやで。そらそうと、今日は外回り違うの」 「すんません、今日は、一日中会議なんですわ」 「ほんまかいな。あ、そうや、あの店で一緒になった女送って行ったんやて?」 「ええ、あんまり酔うてたもんやから、タクシーに乗せたげたんですわ」 「それだけとは思えんけどなぁ、あんたは」 さすがに鋭い、と田中は思った。 あの後、その夜の発表者である生物学の教授を囲んでの懇談の最中、「千夜」のマダムから小さな紙切れを受け取った。そのメモには、キタのショーパブの店名と時間が書いてあった。 ニューハーフのショーパブには何度か行ったことのある田中だったが、その店の名前は初めて聞く名前... 続きを読む
第四話 ドライ・シェリー 10月 04, 2020 4-1 肥後橋のたもとを西に曲がり、大川沿いに少し行ったところに「中之島竹林亭」という、古くからある有名な料亭がある。 ここでは毎月第四月曜日に「吟醸酒で楽しむ料理の会」という催しが、その月毎に一つの蔵を選び、ちゃんと造られた日本酒を味わいながら、その日本酒に合わせた料理を楽しもうという趣向でおこなわれている。 田中は、以前からこの会にプライベートで参加していたのだが、今回は意気込みが違っていた。と言うのは、田中の会社の翌年の方針として、割烹料亭への売り込みが決定したからだ。 バー、スナック、レストランでの販売競争は熾烈を極めるとともに、過当競争が値引き競争を呼び、田中の会社のような中堅商社は苦戦を強いられていた。この状況を脱するための苦肉の策が割烹料亭への参入作戦という訳だった。 部長の松田に呼ばれた田中は、課長、係長を差し置いて、新規ルート開拓部隊のチーフに任ぜられ、特別の接待交際費枠も認められた。 田中にとって、その日は本気で山田との対決を始める日でもあった。 山田は、吟醸酒をひっさげて洋酒業界に殴り込みをかけて来た男だ。田中の会社の取引先でも最近、吟醸酒を扱うところが多くなったが、それに反比例してワインの売上は落ちていった。そして、気がつくと、全てが吟醸酒に入れ代わっていたという店までも現れ始め、それが、フランス料理店だったりするのでは、田中の会社としても安閑としていられる筈がなかった。 松田の命を受けて、建て直しに向かった取引先には、必ず山田が置いて行った吟醸酒があった。 会はいつも山田の独壇場で、洋酒を扱っている会社に勤めている田中がその場にいるのもお構いなしに、佳い吟醸酒がいかに佳い料理にピッタリと合うかを滔々と語るのだった。 「本当に佳いお酒というのは水みたいに飲めるお酒です。本当に佳いお酒というのは、散々飲んで帰ってから、もう一杯飲みたくなるようなお酒です」 これが山田の口癖だった。そして、いつも「田中さんとこ、そんなワインありますか」と水を向ける。 「シャンパーニュなら、通しで飲めますけど」 「あんなもん飲んでたら、腹一杯になってしもて、お料理食べられしません」 「辛口の白、例えば、ミュスカデ、モンラッシェあたりなら合いますけど」 「白ワインはお鮨に合うとか言うてはりますけど、要するにレモンとか、酢とかで口をごまかさなあかんわけです。... 続きを読む
第七話 マテウス・ロゼ 10月 04, 2020 7-1 新年が明け、田中の会社でも初出社の日がやってきた。 休み明けの気分は、初登校する学生のようなもので、何だかウキウキするような気持ちと宿題の提出に少しの不安を抱えての出勤となる。 それでも、女子社員たちの中には振り袖で出社してくる者もいて、正月らしい華やぎが、これから始まる重苦しいサラリーマンライフに一瞬の安らぎを与えてくれる。 松田部長から新年度に向けての経営トップの方針が発表され、部内の新プロジェクトとして発足した田中たちのPKOの活動内容が伝えられた。 林田課長が、一課、二課に続いて、三課の目玉としてのPKOの活動方針を補足して新年の挨拶兼部内ミーティングの全てが終了した。 いつもの年なら、この後景気づけの祝杯を挙げて得意先の挨拶回りに繰り出すところなのだが、それぞれの課では引き続きミーティングに入った。 田中は、それを横目に、林田課長、大森係長が声をかける前にプロジェクトチームのメンバーをともなって会社を後にした。 「主任、どこへ行くんですか?」 振り袖を着たチームリーダーの大林が、田中を小走りに追いかけながら尋ねる。 「ミーティングや。ドトール・コーヒーかワイン・バーか、どっちがええ」 「ワイン・バー、もうやってますか?」 「心斎橋の方やったらやってるやろ、そっち行ってみよか」 田中たち五人は、すっかり葉を落として冬の青空に突き刺さっている銀杏並木の御堂筋を南に向かって歩いて行った。 ワイン・バーも乱立していた頃の活況はなく、ミナミとキタにそれぞれ一軒ずつがかろうじて生き長らえている有り様だった。 その店は、ワインの品ぞろえに定評があり、田中のような業界関係者や、ホテルやバーのソムリエたちが集まる店として知られていた。 席について、田中はミュスカデを、大林たちは例によってワイン・クーラーを注文し、クリームタイプのブリー・チーズをオードブルにした。 「どや、宿題は出来たか」 「あのー、僕の方から発表させて貰ってもよろしいでしょうか」 一番若手で唯一の男子社員である関口が口を開いた。関口にはコンピュータが得意なことから、顧客管理システムを研究しておくように言ってあった。 「コンピュータを使って顧客管理するいうことは、まず前提として膨大な顧客と膨大な入力項目があるいうことです。しかしながら、営業三課の場合、現在、膨大な顧客というには程遠い顧客数... 続きを読む
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