第一話 ボージョレ・ヌーボー

 





1-1

御堂筋の銀杏もすっかり黄色に色づき、すでに街のいたるところに冬支度の気配が感じられるようになった。
景気の方は一向に回復する兆しを見せないままもう五年目に入り、田中の業界でもその影響を受けないわけにはいかなかった。

それにもかかわらず、なぜか一人田中だけがそんな世相など何処吹く風とばかり元気そのもので、上司をはじめとして同僚までもが田中の元気の秘密を量りかねていた。

おまけに田中の営業成績は社内でも群を抜いていることが、同僚の間でやっかみの元にもなっているほどで、決して一生懸命にやっているとは思えないその勤務態度が、ますます他の社員たちの猜疑心をあおることにつながった。

しかし、男子社員達に対する不人気とは裏腹に、女子社員に対する人気は抜群で、そのチャランポランに見える勤務態度ですら、人間的であるとか、ユトリがあるとか、男らしいとかの評価があり、営業成績の優秀さと相まって、同僚たちのやっかみを募らせるのだった。

夕方五時のチャイムが鳴ると、田中はいつものように机の回りを片付け、分厚い黒いトランクを持つと、「オイ、オイ、役所と違うぞ!」と言う上司の声を背中に聞き流し、さっさと会社を後にした。

「田中です」

ブザーを押して田中が入っていったのは阿波座にある高級マンションの一室だった。

「田中さん、待ってたんやから」

「すんません、おそうなってしもて」

田中が言い訳する時間も惜しいとばかり女がからみついてきて、綺麗な形をした唇で田中の口をふさごうとして、

「あっ痛い」

「あっ、すんません、もうヒゲがのびてしもうて」

「いいんよ、それが好きなんやから。シャワー、それともお風呂?」

「もう、ママは入らはったんですか?」

「アホなこと言わんといてヨ。待ってたんやから。あんたと入ろ思て」

女はシルクのロングスリップを着けているだけで乳首と脚の間とがかすかに透けて見えている。田中は、丸っこい指先で乳首をつまみ、

「ママのこれ、はよ、食べたいなぁ」 「アホ、後で」

と、田中の手の甲をつねり上げる。

「あいたたた、痛いがな」

「はよ、シャワーしょ」

「そうしましょ」

田中は女の腰に手を当てると、勝手知ったる足取りで廊下を奥に進み、寝室のドアを開け、窓際のカウチの上に洋服を脱ぎ始めた。

「あたしが脱がしたげる」

と言うと、女は苛立ったような仕種でズボンのベルトに手をかけ、同時にズボンの上から田中の物をつかむと、ゆっくりと指に力を込め、てのひらで持ち上げるように動かしはじめた。

「田中さん、待ってたんやからほんまに」

1-2

女の唇が、田中の唇を求めて宙をさまよう。田中はその唇を受け止めるべく、背中を丸め、ネクタイを外しかけた手を止めて女の背中に回し、力を込めて抱き寄せた。女の胸の膨らみがワイシャツの上からも感じられ、女の両方の腕が田中の腹に押し当てられる。女は田中の右手を下に導こうとする。田中はそれに逆らわずに女の手が導くのに任せた。
田中は背中に回した腕を背中にそって下げていくと、尻の膨らみをつかんで脚の筋肉をさすり、骨盤に沿って両手の親指でなぞりながら腹とへその回りの柔らかな膨らみを確かめるようにさすった。

「そこはあかん。こそばいからあかん」

指を当てると潤んでいるのが分かる。田中は充血した左右の膨らみを代わる代わる親指と人指し指で挟んで押し、溝に沿って上下に動かした。

女の体が一瞬、けいれんしたようにビクッと動いたと同時に、豊かな愛液が田中の指に触れた。

田中はその液体が出てきた部分に中指を沈めるとその指を奥から掻き上げるように恥骨に沿って一気に突起した部分まで運び、二、三度軽く往復してからそれをくわえてしゃぶった。

指からはかすかな夏草のような匂いと海水の味がした。

田中は、深呼吸するようにその匂いを胸一杯に吸い込んで、つぶやいた。

「ボージョレやな、今日のワインは」

「えっ」

「いや、ママに飲ませてあげたい今日のワインはボージョレやなぁ、思て」

「ボージョレて、ボージョレ・ヌーボーっていう、あれ?」

「ええ、毎年十一月の第三金曜日に世界一斉に飲もういうわけで。今年も入荷したとこですわ」

「あれ、あっさりしすぎと違う?」

「ええ、あのブドウ園でできるワインはとにかくその年で一番に飲めるいうところが特長なんですわ。なんでもその昔、イギリスでそのワインを一番に飲もういう競争があったとかいうことで人気が出たんですわ」

田中は女から離れるとワイシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着、靴下と脱いでカウチの上に積み上げていきながら話し続ける。

「味のほうは確かにたいしたことはないんですけどとにかく、その年の収穫を祝うお祭りには欠かせないワインなんですわ」

「味のほうはたいしたことないて、それやったらあかんわ。うちとこのお客さんみんな味にうるさい人ばっかりやもん」

「味にうるさい人もこのワインにだけは目つぶるんやないですか。言うたら、初もん食いみたいなもんですわ」

喋り続ける田中の顔から女の視線が下に向かう。何も着けていない田中の体は、洋服を着ているときよりもガッチリとしまって見える。はっきりとした腹筋の下の田中の物に視線を固定している女に向かって田中が言った。

「シャワー、しましょ」

1-3

流れ落ちてくる熱い水滴の下で女の体は輝きを放っている。二十代の張りこそはないものの、手入れの良く行き届いたキメの細かい肌は脂にはじかれた水滴がくっついて、洗ったばかりの熟れた果物の表面を思わせる。
抱き合ったまま二人でボディソープを使い、体の隅々まで指で洗いあった。

女はそうしながら目をつぶり、田中の体をいとおしむようにさすり、田中の物を握りしめ前後に動かし始めた。

田中は女の両乳房をてのひらの中に収めると、外側に向かって円運動を加えながら押しつぶさないように気遣い気遣い揉み続けた。シャワーの音がやたら大きく感じられた。

女が田中の物を自分の中へ収めようと、壁に背中をくっつけ腰を浮かそうとするのを、田中は腰に手を当てて支え、自分は少し腰を低くして女の両脚の間に体を差し入れた。

シャワーが叩いていた田中の物に当たる部分がだんだん少なくなって、最後にはなくなった。

そのまましばらく田中は動かないまま、女の唇を吸った。唇を吸い続けながら、田中は突然自分の物を抜き取ると、女を壁に向かわせ、腰に両手を当てると、女の尻から突き刺した。

女は腰をかがめ、田中の物を口一杯に頬張るように両脚を広げ、田中の方に突き出す仕種をした。田中は、それに応えるように左右の尻の肉を押し広げ、より深く自分の物を差し込んだ。

女の背中に掛かるシャワーの水滴が尻の間に流れ込み田中と女の結合部に暖かい刺激を送ってくる。田中は両脚を踏ん張り、女の尻を乱暴に押し広げ突き上げる。突き上げるたびに、女の長い髪が左右に振られ、髪についた水滴が飛び散る。

女の尻から腰へ、腰から胸へと田中の両手が移動していき、両乳房を掴むと力を込めて揉みしだく。女の背中が震えている。女の膝が震えている。

「一郎さん、はよ来て!」

女が叫ぶ。

「はよ、はよう」

田中は、その声を聞いて腰を後ろに引くと体を女から離した。

シャワーが田中の物に当たり始め、すぐに女の愛液を洗い流していった。

「いやや、何でやの」

女が振り向いた。

「すんません、ここでいく気にならんのですわ」

「何いうてんのよ」

「いやぁその、あんまりママが綺麗なもんやから」

「どういう意味やの」

「その、つまり、綺麗すぎるとどうにも、この萎縮するっちゅうか」

「さっきまでちゃんとできてたやないの」

「そっ、それが急に」

女はうなだれてしまった田中の物に視線を落とし呆れ顔になる。

「すんません、こう、なんか、強姦してるような気ぃしてあきませんのや」

「ここがあかん言うのんやったら、分かった。ベッドやったらええわけやね。ほな、ベッドいこ!」

1-4

本気で怒りだしてしまった女の後を追って田中は寝室に入っていった。
そして、入るなり分厚い黒いトランクを取り上げるとベッドサイドテーブルの上でそれを開けた。

「ママ、機嫌なおしに、これ一杯どうです」

「いらんわ、そんなもん」

女はバスタオルを胸に巻き頭にもタオルを巻いてベッドに両手を頭の後ろに組んで倒れ込んでいる。

「まぁそう言わんと」

そう言いながら、田中はトランクの中から赤ワインとワイングラスを二つ取り出してサイドテーブルの上に並べた。

「オードブルは、何にしましょうかね」

「いらん言うてるやろ」

「そないにプンプンせんといて」

田中はワインをグラスに注ぐとそれを女の方に捧げるように持っていった。

「一口、飲んでみて」

「いらんわ」

「そんなら、こうやったら飲んでくれるんかいな」 

田中は、そう言いながらワインを口に含み、そのまま女の口に持っていき、かすかに開いた隙間から舌でこじ開けるようにしながら流し込んだ。女の舌は始めは拒むように堅く尖っていたが、やがて、田中の舌を受け入れ、口の中で少しぬるくなったワインの侵入をも許した。

「おいしい」

「そうやろ、葡萄ジュースみたいやろ」

「ほんまやね。もう少しちょうだい」

田中は、手に持ったグラスを女に渡すと、ワインで満たした自分のグラスを女のグラスに軽くぶつけた。グラスは金属質の甲高い音を立て、しばらく余韻を部屋に残した。

二杯目を空けながら、女が田中に聞いた。

「このワイン、何に一番合うの」

「うん、そうやなぁ、今やったら、カキがシーズンやから、一番やと思うけど」

「カキ、食べたら二日酔いせぇへんもんなぁ」

「違う違う、海のカキや」

「ああ、海のカキやの」

「殻つきの、生ガキにレモンをキュッと一絞りしてなんてのが最高やなぁ」

「魚料理やったら白ワインなんと違うの?」

「うん、そのとおりなんやけど、僕はシャブリとかの高級白ワインに合わすよりこのボージョレなんかに合わせた方がカキの野性味を引き出せてええような気がするんやけど。それに、白ワインで魚介類を食べると口の中が生臭うなってしまうんや。白ワインに含まれてる酸のせいなんやけど」

「ふうん、田中さん、さすがやないの」

「そらまあ。そやけど、このワインやったら、ママのあそこの方が美味しいやろな」

田中はそう言いながら、バスタオルの裾を開き顔を埋めていった。女は抵抗しなかった。

抵抗しないばかりか、ゆっくりと両脚を開き、田中の舌がまさぐるのに都合のいい角度に腰を浮かし刺激に合わせるように両脚で田中の頭を挟みつけたりゆるめたりしながら、愛液を滲ませはじめた。

1-5

「あっ、ああっ」
田中が突起した部分に歯を当てて軽く噛みながら舌で左右に刺激を与えたとき女の口から声が上がった。

田中は手をのばしてグラスから一口ワインを口に含み、突起部に少しずつワインを舌で塗りつけるようにしながら味わった。

微量のアルコールが新鮮な刺激を作りだしているらしいことが、女の動きで伝わってくる。舌の動きを早くするに従って女の体にけいれんが走っているような動きになり、やがてそれが激しくなる。

女が田中の頭を両手で押さえつけ、両脚を開いて力を込めたところで、

「一郎さん、来て!」

田中はその声に合わせて体を起こし、上体を女に預けると同時に温かく湿った部分に自分の物をあてがった。

「ああっ!」

女が喉の奥から声を絞り出し、上体をのけ反らせる。田中が女の背中に回した腕に女の背筋の動きが伝わってくる。

体には汗が浮かび田中の汗と交わりこすり合わされ官能的な匂いをたてはじめる。

女の部分は規則的な蠕動運動を田中の物に伝えてくる。快く田中の先端のくびれた部分で湿って温かい管が締めつけたり緩めたりを繰り返している。

「一郎はん、ええのんよ、心配せんでええから」

その声を聞いて田中は力一杯女の尻を引きつけ、自分自身を女の体の中にめり込ませるかのように抱き寄せた。その瞬間、田中は自分の体の一部が溶けだして女の体の中に吸い出されていくのを感じた。

視線を上げると、女が鏡台の前でメイクを始めているのが見えた。田中が起き上がろうとすると、それに気づいて、

「ええのんよ、まだ寝といて。うちはお店やけど」

「いえ、僕も一緒にいきますわ」

「生ガキやけど今度やってみようか思うんやけど」

「生ガキやったら絶対ボージョレ・ヌーボーやと思いますけど」

「分かってるわ、そんなこと。一週間くらい、キャンペーンみたいな事しようかと思うてんねんけど」

「一週間もですか」

「簡単やろ。カキとレモンと、このワインさえあったらできることなんやから」

「このワインはボディもないし艶もない。いや、とにかく新しい、若いだけが取り柄なんですけど、口当たりのスッキリしたところがママみたいな感じで爽やかそのものですわ」

田中がベッドから起き上がって鏡台の側にいき、メイクをしている女の後ろから顔を覗き込みながら続ける。

「そやけど、カキよりママのあそこをアテにしたらどんなワインも美味しいと思うけどな」

「アホ、そら、あんただけや」

「あいたたたたた!」

女は後ろも向かずに田中の逸物をつまんで力まかせに引っ張ると、鏡の中から田中に笑いかけた。

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